1.中心市街地の再生方法−TMOの必要性に向けて
1-1.「街の中心」とは何か
初めにTMOの必要性が論議されてきた街自体のあり様について、共通認識を持ちたいと思います。それは『街の中心とは何か』ということについてです。
ここで、中心市街地の活性化事業を実践している三人の言葉を紹介します。はじめは、イギリスのATCM
(Association
of Town Centre Management)会長のアラン・タレンタイア(Alan
K. Tallentire)さんです。彼は「地域経済の発電所になり得るものが街の中心だ」と話されています。次に、アメリカ・ボルチモアのDPB(Downtown
Partnership of Baltimore)マネジャー&エグゼクティブ・ディレクターのロバート・デングラー(Robert
E. Dengler)さんで「街の中心というのは、その都市のエンジンである」と。さらに、ドイツのミュンヘン市都市計画部長ヴァルター・ブザー(Walter
Buser)さんの言葉で「街の中心というのは、都市のリビングルームである」と。それぞれに街の中心(中心市街地)の役割を端的に示した表現であると思います。
総括すれば「街の中心があってこそ私たちの生活が成り立つ」ということと、「そのように捉えることから都市の再生がはじまる」と考えたいと思います。
1-2.中心市街地再生の仕組み
それでは「中心市街地の再生方法」をどのように考えるべきか。勿論、一元的な中心市街地再生理論はありません。
基本的に、中心市街地に住み、また都市に関わる一人ひとりが自らの思いを前面に出し、自らが豊かに生活、活動するための努力を払うことによって、中心市街地が都市の中心地にならないはずがないといえましょう。とは言っても、日本も含め、世界のどの国も同様に、法律を含めて、生活をする上で多くの規律や秩序をつくってきました。その規律や秩序は、昨日、今日に作られたものではなく、10年、あるものは100年前に作られた規律なり約束事です。現在の私たちの生活は、その約束事の上に行われなければいけないということがあります。そこで、私たちが今実行しようとしていることを阻害したり、枠にはめたりと、どうしても歪みやギャップ等の問題が存在しています。そういうことを踏まえながら、我々は努力をしなければいけない。現実には1人ひとりが100の力を持っていても、その力を発揮できない場合があるということです。そこで、それぞれの力を最大限に発揮するためにはもう一度原点に立ち返り、皆でスクラムを組み、多くの約束事は今まであったが、それを乗り越える行動、活動をしていくことが中心市街地再生の第一歩であると強く感じています。
ところが、皆でスクラムを組み、行動するというのは非常に難しいことです。口で言うのは容易ですが、それは今日の商店街や町内会の活動を見ても強く感じます。同じ目的意識を持って、同じ方向の活動をするということは、理論では可能であっても、現実的には不可能に近い状況にあると思います。しかし、その不可能に手をこまねいて挑戦しなければ、現状は打開できない。では「どのように輪を広げていくか」ということが今、求められているといえましょう。
ここで、宮城大学の野田一夫前学長の言葉を紹介します。学長は「地域を変えたいと思うなら、あなた自身が変えていく。あなたが変えていく努力をすることによって、味方が3人、4人と増えていく。」という話をされます。それは「ラジカルマイノリティが、マジョリティを引っぱるのである」との言葉を引き合いに出されて話されます。皆で力を合わせてやるということは、もちろん究極の目的です。しかし、誰かが先頭を切らなければそういう社会はできない。今回のTMOを含めて、中心市街地の活性化の事業というのはそういうことであると思います。
実は、中心市街地活性化法制定時(平成10年6月)に「地方都市における中心市街地活性化に関する検討委員会」に参加をさせていただきました。その中の議論で「これまで国は、地方公共団体(県、市町村)に相当期待をしながら、地域活性化の支援をしてきた。しかし、国の経済状況、さらに地域の経済状況も大変厳しくなり、やるべきことができなくなりつつある。また、我が国の場合には、地方議会、首長、職員のレベル等が、約3,300の全自治体が同じとは言えず、また自治体内部でも、本来であれば一緒にスクラムを組み、地域を変えていく体制を作り上げなければならないが、どうしてもどこかが阻害要因になる。そこで、中心市街地の再生にあたっては、“再生するための仕組みとして中心市街地活性化法制定”が必要である。」との共通の理解に達したことを思い出します。
以前、イギリスATCMのタレンタイア会長から「なぜ日本は法律をつくらないと動かないのか」ということを問いかけられた時に、「日本はそういうような後ろ盾があると動く国民性である」と話をしたことを記憶しています。世界も注目をしています。先進諸国の中で唯一、法律で中心市街地を再生しようとする独自の方法論を作り上げたのが我が日本です。よって「“私たちが行動しなければ結果が出ない”というダイアグラムが出来あがった」ことを理解し合いたいと思います。
1-3.再生の戦略
次に、「再生の戦略」についてです。そのポイントは何か。それをあえて提示するとすれば、次の3戦略を持つことが重要であると考えます。
それはアメリカで認識されているものです。第1は「プランニング戦略(Planning
Strategy)」、第2は「デベロップメント戦略(Development
Strategy)」、第3は「マネジメント戦略(Management
Strategy)」ということです。このうち前の二者については、本来は基礎自治体(市町村)がやること。そして、それを実行し、トータルに1+1を5なり10なり100なりにしていく「マネジメント戦略」は、地域の人々がつくるものであると捉えられています。この3戦略がリンクしていかないと、地域再生は本来の姿に結実しないと考えます。
戦略論として、これはイギリスで言われているリンケージ論(物事の結びつきを大切にする考え方)とも結びつきますが、地方自治体が財政危機に陥っている現在の先進諸国の考え方は、この3つの戦略の実行にあたって「官民パートナーシップ(Public
Private Partnership; PPP)の展開」が必要であるということです。「パートナーシップとは、仲よしグループをつくるということではなく、お互いの責任を果たす」、「お互いに持っている力を出し切る関係をつくること」。お金のない人にお金を出せという話ではなく、持っている力を出し切る。ですから、そこには精神的なこと、知識に関することや経済的なことも勿論あります。いわゆる、「お互いに持ち得ているものを出し合い、最大の効果を上げるための展開を行うという実践的戦略マネジメント組織がTMOである」と考えます。これは、イギリスのPFI
(Private Finance Initiative)で指摘されている「Value
for Money」に通じる考え方ともいえます。
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